国内大企業の本社ビル売却が加速している。
音楽芸能大手のエイベックスはすでに売却先が決定。
広告代理店・電通グループ、物流大手の日本通運なども売却検討と報道されている。
本社ビルを売却する理由としては、
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う
テレワーク・リモートワークの推進による自社ビル不要論
経営環境の悪化にともなう資産売却による財務基盤の強化
などが挙げられているが、それだけだろうか?
以下、背景を探ってみた。
世界的な金融緩和による「金余り相場」不動産市場にも流入
現在、株式市場は大きく活気づいている。コロナ不況はどこへやら、2020年末には、NYダウ・日本平均ともに史上最高値を更新した。
これは、世界中の中央銀行が「量的緩和政策」を実施している影響だ。
政府は国民の生活や景気を支えるため、コロナ禍による失業対策や雇用確保など補正予算を組み補償を行う。
この元手になるのが、中央銀行が供給する通貨(円やドル)だ。
ようは麻生財務相の「金がなければ刷ればいい、簡単だろ」発言のことだ。世界的なコロナ不況を前に各国の中央銀行は前代未聞の勢いで大量のマネーを刷りつづけ市場に供給している。
すると、どうなるか?
株式市場や金市場に大量の資金が流れ込むことで、資産価格は上昇に向く。「過剰流動性相場」とも呼ばれる。
この流れは当然「不動産市場」にも及ぶ。市場に流動する通貨量が通常の経済活動に必要とされる水準を大きく上回り続けると「お金がダボついている状態(金余り)」になる。
この「余ったマネー」が、株式や不動産投資にまわるのだ。
本社ビル売却先は「海外の不動産投資ファンド」
現在は特に、海外の外資系ファンドなどの投資意欲が高く、不動産の買い手が見つかりやすい状態になっている。
また、二度目となる緊急事態宣言下でも、店舗や会社は営業時間短縮しながらも営業は継続している。欧米のロックダウン比べれば日本の不動産市場はコロナの影響が小さいことも外資系ファンドの購入意欲を上げる要因となっている。
というわけで、国内大手企業の本社ビル売却が相次ぐ要因は、世界的な金融緩和政策にともなう不動産投資の活性化・不動産価格上昇が背景にあるとも言える。
エイベックス本社ビル売却先は「カナダの不動産投資ファンド」
ちなみに、エイベックスの南青山本社ビル売却先は、カナダの不動産投資ファンド「ベントール・グリーンオーク社」
エイベックス本社売却の理由として「コロナ禍により業績悪化がし、資産売却による財務体質改善の狙いがあるのでは?」と一部報道されていたが、じっさいのところ、どの程度苦境に立たされているだろう。
エイベックスの経常利益はコロナ前と比べ50%減少
エイベックスの決算情報を見てみよう。
以下は、直近3年間のエイベックス決算情報-「みんなの株式」より引用
決算期 (決算発表日) | 売上高 | 経常利益 |
---|---|---|
2020年3月期 (2020/05/14) | 135,469 | 3,017 |
2019年3月期 (2019/05/09) | 160,126 | 6,529 |
2018年3月期 (2018/05/10) | 163,375 | 6,582 |
2019年から2020年にかけて、経常利益は50%減少している。
3密回避などコロナ対策で音楽ライブ開催が中止になるなど、たしかにイベント業界の現状は厳しいものがある。
一方、音楽配信サービスのAppleMusicは過去最高収益
しかしその一方で、米アップル社の音楽配信サービス(AppleMusic)は過去最高収益を更新するなど、音楽業界そのものが苦境に立たされているとは言い難い。
エイベックスの業績悪化についてはコロナ禍だけが原因ではなく、旧態依然の経営体質、新規事業の不振、会社の顔となるアーティストが現れないことなど本質的な理由は別にあるという声も。
アムウェイ本社ビル売却の理由は「業績悪化」
もう一つ、本社ビル売却の例として「日本アムウェイ」を見てみよう。
アムウェイは世界的な会員制ビジネスの会社だが、渋谷の本社ビルを米国「ブラックストーン社」に売却している。2018年に売却後は同自社ビルにて賃貸契約を継続中。
アムウェイ本社ビル売却の理由もエイベックス同様、資産の売却による財務体質改善が狙いと見られるが、ビジネスモデルそのものも問題を抱えてきた。
先ほどもお話したとおり、アムウェイのビジネスモデルは会員制ビジネスであり、ねずみ講ではなく「連鎖販売取引」と呼ばれる。ただし、勧誘がしつこくマルチ商法と揶揄されるなどイメージの悪い印象を持つ人も多い。
現在では、勧誘活動する個人事業主への試験導入やコンプライアンス違反対策など営業体制の見直し・改善が進められている。
まとめ
以上、国内の本社ビル売却が相次ぐ理由をまとめると
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う
テレワーク・リモートワークの推進による自社ビル縮小・廃止
経営環境の悪化にともなう資産売却による財務基盤の改善
また、各国の中央銀行による金融緩和政策にともなう不動産市場の活性化が背景にあると考えられる。